【米国株分析】スリーエム(MMM)
私は主に米国の会社の個別株式投資しているのですが、一応は財務系の専門家の端くれなので、投資対象への理解を深めるために分析記事を書いていきたいと思います。
なお、これらの記事は読者の方になんらかの投資を推奨するものではありません。投資はご自身の判断でお願いいたします。
(私の資産運用戦略については過去記事をご覧ください)
https://nakate.hatenablog.com/entry/2018/07/14/234202
第1回目はスリーエム(ティッカーコード:MMM)を取り上げます。会社名自体はあまり知られていないかもしれませんが、ポストイットを世に送り出した会社です。
基本情報
会社名 | 3M Company |
ティッカー | MMM |
創業 | 1902 |
決算 | 12月 |
本社所在地 | ミネソタ州 |
従業員数 | 93,516 |
S&P 業種セクター | Industrials(資本財) |
S&P格付 | AA- |
監査法人 | PwC |
CEO | Michael F. Roman |
CEO就任時期 | 2019 |
~2018 Annual Report より抜粋~
栄枯盛衰の激しいアメリカ企業の中において100年以上の歴史を持つ名門企業で、60年以上の連続増配記録を持つ超優良銘柄でもあり、米国株の投資家の間ではよく知られています。
CEOのMichael F. Roman氏は今年就任したばかりですね。Annual Reportによると、30年以上前にこの会社に入ったとのことなので、生え抜きの社員のようです。
アメリカの会社は外部からCEOを採用することが多いので、少し意外な印象を受けます。これは推測ですが、3Mのような技術系のコングロマリットのかじ取りには社内のことをよく理解している社歴の長い人材が向いているのかもしれません。業界自体がそれほど劇的な変化に見舞われていないので、ドラスティックな変革を迫られていない、という見方もできますね。
事業概要
3Mは世界有数の化学メーカーであり、世界70か国でビジネスを展開しています。研磨剤やビニールテープ、接着剤、フィルムなど、多種多様な化学製品を主な商材としており、 Industrial; Safety and Graphics; Health Care; Electronics and Energy; Consumerの5つをビジネスセグメントと定義しています。
多くの製品が工場の生産ラインなどで経常的に使用する消耗品のため、一度採用されてしまえば定期的に売上が上がり、安定したキャッシュフローが見込めそうなビジネスです。
財務分析
P&L サマリ
売上高は2014年から2016年までは下落基調でしたが、それ以降は回復傾向にあります。
特筆すべきは粗利率(Gross Profit%)の数値が49%台と高い水準で安定していること。純利益率(Net Profit%)も直近で16%台、非常に高い数値です。
同じく米国の大手化学メーカーであるデュポンの純利益率は約4%、旭化成は約7%(いずれも2018年度)ですから、比較すると3Mの利益率の高さは群を抜いています。
セグメント別売上&営業利益、地域別売上高
セグメントについての解説をAnnual Reportや公式サイトからまとめてみます。
- Industrial Business
自動車、電機、製紙、包装、食料品などの生産に使用されるテープや研磨剤、フィルムなどの化学製品のビジネスを指しています。 - Safety and Graphics
特殊な作業環境下で個人の安全を守るプロダクト(防塵マスク、保護メガネ、高所作業用ハーネス)と、看板やネオンサインなどグラフィック広告に使用するパネルやフィルムのビジネスです。 - Health Care Business
医療現場で使うテープやフィルム、作業服などの製品です。医療用テープや手術の時に使用する(サージカルドレープ)歯科治療に用いる接着剤や歯磨き粉など、多種多様な製品を提供しています。 - Electronics and Energy Business
Electronicsはパソコン、テレビ、モバイル機器に使用する液晶パネルのフィルムなど、Energy は電力、エネルギー業界で使われる絶縁テープなどの製品です。 - Consumer Business
前述したポストイットやスコッチブランドなど、一般の消費者に向けたテープなどの文房具を扱うビジネスです。
売上高は主力のIndustrialとSafety&Graphicsが堅調ですね。営業利益は全セグメントで20%前後といずれも利益率が高いビジネスのようです。
続いて地域別の売上高推移です。
地域別にみるとUSは微増、EUは為替の影響を除くとほぼフラットというコメントがあるため、全体の売上の伸びはAsia&Pacificがけん引していることがわかります。国でいうと、やはりChina/Hong Kongが貢献しているとのこと。
キャッシュフロー
キャッシュフローを見る時に注目したいのが営業CFと売上高の比率です。
会計の世界では「利益は意見、キャッシュは事実」と言われており、その意味するところは会計上の利益はルールの範疇で恣意的に操作することが可能だが、キャッシュは実際に企業の稼いだ現金である以上、ごまかしが効かない、というわけです。
つまり営業利益と営業キャッシュフローに大きな乖離があった場合は、なんらかの会計操作で利益を水増ししている可能性があるのですが、3Mの場合は営業利益率22%~23%, 営業キャッシュフローもほぼ同じような水準で推移しているのでその心配はなさそうです。
バランスシート
バランスシートの資産の部を見ると、流動資産、のれん、固定資産がほぼ3分の1ずつといったところでしょうか。2014年から2018年にかけてのれんの金額が大きくなってきており、積極的な買収で事業を拡大していることがわかります。
ROEは54.6%, ROA は14.7%と驚異的なまでに高い水準です。もともと純利益率が高いビジネスの上、長期の借入金などを使って財務レバレッジをかけているので資産、資本効率とも非常に高いです。
株主還元
一株当たりの利益(EPS)と一株当たり配当(DPS)、配当性向(DPS÷EPS)のグラフです。5年間の成長率はEPSが2.5%、DPSは9.7%と利益の伸び以上に株主への配当金を増やしているのがわかります。結果、配当性向は64.3%にまで上昇しており、今後はあまり配当を増やす余裕がなさそうな印象を受けます。
その他株価指数など
予想PER | 18.61 | ||
連続増配年数 | (Seeking Alpha) | 61 | |
配当成長率(過去5年) | 9.7% | ||
配当利回り(予想) | 税引前 | 3.4% | |
税引後 | 2.5% |
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総括
すでに世界中でビジネスを展開している成熟分野の巨大企業なので、売上の急激な伸びこそ見込めないものの、事業セグメント、地域とも広い分野に分散しているので、特定の業界や地域の景気減速のインパクトを受けにくく、安定した収益が期待できそうです。
高い利益率に裏打ちされた潤沢なキャッシュフローを使って、61年にもわたって積極的には配当を増やしてきた実績は圧倒的。配当を目的に長期で持ち続けるには最適な銘柄と言えます。
PERは18倍台なので、ちょっと割高な印象を受けますが、直近の配当利回りは税引き前3.4%となかなか悪くない水準です。
個人的には冬の賞与で少し買い増しを検討しています。一度買ったらよっぽどのことがない限り持ち続け、配当による利益をコツコツ積み上げていきたいと思っています。
ここまで書いておいてなんですが、3Mの決算は12月なので、もうじき2019年度が終わりますね。新しいAnnual Reportが公開されたら改めてデータをアップデートしたいと思います。